ある会社は、従業員と「言った」、「言わない」でモメてしまいました。

 

 従業員の主張は、「そんなこと、面接のときにも聞いていません!」

 一方の会社は、「就業規則に、きちんと書いてあるでしょう!」

 

 

 どちらも、一歩も譲る気がありません。

 

 こういったケースが発生してしまったら、どうすればいいのでしょうか?

  • 「私は、就業規則の存在を知りませんでしたので、そういう契約ではないはずです!」
  • 「そもそも、私はこの就業規則には同意をした覚えはありません!」 

 でも、 しっかりと就業規則を整備をしておけば、このようなことがあっても大丈夫です。


 ここでは、社長にもちょっと判例の理解をして頂きます。
 とはいっても、わかりやすく話しますのでご安心ください。

 

 つまり、最高裁の判例は、
 就業規則は、「合理的な労働条件を定めているものである限り、…労働条件は、その就業規則によるという事実たる慣習が成立しており、…社会的規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解すべきであるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然に、その適用を受ける。(昭43.12.25最大判、秋北バス事件)

 

 といっているわけです。

 このままでは、ちょっとわかりにくいですね。

 

 要約すれば、「合理性ある就業規則には、法律(契約)としての効力を与えましょう。それは、存在、内容を知っていようといまいと、個別の同意があろうとなかろうと、全員適用される」ということです。

 

 ところで、よく出てくる「合理性」って何ですか?というところですが、「労使の間で、『これは、ごもっとも』といえる就業規則は、労働契約の内容です!」ということです。

 

 学者の間では、まだ議論がし尽くされていないようですが、我々は実務家ですからその辺は学者の方に任せるとして、当然に法違反がないこと、公序良俗の程度が合理性を左右するでしょう。

 

 

 もっとわかりやすくご説明します。

 それは、「就業規則は『約款』の性質と似ている」ということです。

 よく、会社の損金で保険に加入したり、また個人的にはクレジットカード等を作ることがありますが、契約の際には必ず登場してきますよね。

 

 A4位の複写式になっている用紙に必要記載事項を記入して、印鑑を押印する。基本的にはこれで契約が成立です(モノによっては、「最初の入金があったとき」とかありますが。)。

 

 どのような形で、どのような内容で契約をしたのかというと、基本的な事項は、A4の契約書で契約し、その他の事項については、「約款による」ということになっているはずです。

 あるいは、電車に乗るときに、万一事故が起きたときは、どれくらいの補償をするかということを知っていて切符を購入する人は、まずいません。

 それは、約款によるということになっているのです。

 

 

 ところで、「約款」ってもの凄く字が細かいですよね。細かい字でびっしり書いてあります。
 あれを全て読んだことのある社長はいらっしゃいますか?

 恐らくいないと思います。ですから、当然あの内容について、個別に同意して契約したということもないでしょう。

 

 ところがどうでしょう?
 印鑑を押印して、契約が成立した時点で、当事者は「約款」に拘束されるわけです(契約成立の判断はそれぞれで違いますが。)。

 

 つまり、これを労働問題に置き換えますと、こうなります。

 労働契約はA4、1枚で基本的な事項(給料がいくらで、勤務地は本社なのか、支社なのか、休日は週休2日で、休憩は1時間で・・・)を契約し、その他の労働条件は「就業規則」によるという労働契約になっているのです。


・ 存在、内容を知っているか否か
  ⇒ 読んでいようといまいと


・ 個別に同意を与えたか否か
  ⇒ それに同意しようとしまいと

 

 

こういうことになるわけです。

 

 「約款」に似ているという話を聞いたとき、クレジットカードを作る際に「約款」を読まずに捨て、アルバイトの採用時に、就業規則なんて読みもしなかった自分と重ね合わせ、その考え方に「その通りだなぁ」と学生時代シビれた記憶があります。

 

 やはり、就業規則は、仮に見た目は「紙切れ」と思っても、効力(中身)は、「会社の憲法」であることを社長の皆様には認識していただく必要がありますね

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